2015060101

ビジネスライターという仕事をしていると、取材を通じて様々な知見を得ることができます。それはまるで、個人セミナーを受講しているようなもので、そのせいもあるのかここ数年、僕はセミナーというものに参加したことがありません。

守秘義務契約というやっかいなものもあるし、これから出る記事や書籍の内容にどこまで触れていいのかという難しい問題もあるのですが、自分なりに差し支えないと判断した範囲で、僕が得た知見をシェアしたいと思い、「仕事で得た知見」というカテゴリーを追加することにしました。

戦略思考ではうまく行かない

僕が尊敬するコンサルタントO氏は、「戦略思考」ではもはや経営を立て直せないと言います。

なぜなら、戦略というのは戦争つまり市場の奪い合いに有効な考え方だが、すでに世界レベルで市場が飽和している今、奪い合っても意味がないからです。

そうではなく、市場を創っていかないといけないと言うのです。

ところが、僕自身が「戦略思考」に囚われていたので、「市場を創る」ということがまったく分かっていませんでした。

創った市場は奪われない

以前、誠ブログに栃木のサトーカメラ(以下、サトカメ)の話を書きました(現在は、オルタナティブ・ブログに移行されています)。

サトカメの佐藤勝人専務は、カメラマニアと言っても全人口の1割ぐらいしかいない、だったら栃木県に絞って残りの9割を取りに行こうと考えたと、まあこのような主旨のことを言っていました。

僕は、この例はみんなが見落としていた市場を見つけただけではないか、つまり市場は既にあったのではないかとO氏に問いました。

そうではないと、O氏は言います。

ヒントだけ申し上げると、見つけた市場はその後大資本に蹂躙されるが、創った市場は奪われない、ということです。実際、ヤマダもビックもヨドバシも栃木県ではサトカメに敵いません。

ここには、地域密着だからでは説明できないものがあります。定価でもいいのでサトカメで買いたいと顧客は思っています。これが市場を創った結果なのです。

何となく違いが分かるでしょうか?

マーケティングや販促ももう古い?

「戦略」が古ければ、「マーケティング」などという言葉ももう古いように思います。

僕は、「商業界」の笹井編集長とfacebookの友達になっているため、最近「エクスマ」という言葉を良く見ます。「商業界」で大々的に取り上げているからです。

エクスマとはエクスペリエンス・マーケティングの略です。「モノよりも経験を売れ」ということで、提唱者は藤村正宏氏。「モノよりコトを」の一種ですが、藤村氏自身の実績も方法論もあり、熱狂的なファンがいます。

僕は、「マーケティング」という言葉が引っ掛かっていて、イマイチ乗れなかったのですが、しかし、当の藤村氏の意見も聞かずに評価するのもよろしくはなかろうと思い、公式ブログを拝読していたところ、つい最近「販促やマーケティングは必要ないのかもしれない…」という記事を書かれていたので、ちょっと驚きました。

現場の最先端を知っている人たちは、どうやらシンクロしているようです。

言葉の問題ではあるが、難しいところ

最先端の人たちにとって悩ましいのは、言葉の問題です。彼らは肩書きがブランドだからです。

O氏は「経営戦略コンサルタント」とは名乗っていなかったので、「戦略思考はもう古い」で良いわけですが、藤村氏は「マーケティング・コンサルタント」と名乗ってきたので、「マーケティングはもう古い」という言い方は自己否定につながります。だから、難しいのです。

単に「マーケティング・コンサルタント」という肩書きを変えればいいとはいかないのです。なぜなら、今まで「マーケティング」という言葉に反応する人を引き付けてきたわけですから。しかも「エクスマ」はすでにブランド化しています。

なので、紹介した記事の中でも、ちょっと苦しい書き方をされています。

もしかすると、もうマーケティングとか販促とかは、ビジネスには必要ないのかもしないな。
そう思ったわけです。
必要ないというのは誤解を招くかもしれない。
正確に言うと、従来のマーケティングが必要ないということ。
従来の販促物が必要ないということ。

苦しいのですが、一理あると思います。O氏の「戦略思考はもう古い」も、「従来の戦略思考はもう古い」という言い方をして、「新しい戦略思考」を提言するという方法もあり得るわけですから。

もうこうなると、言葉の問題にしか過ぎません。しかし、言葉の問題だからこそ難しい。

変化の時代には、従来の分かりやすい言葉を使わないほうがいい?

「従来の戦略思考はもう古い」よりも「戦略思考はもう古い」のほうがインパクトがあります。なぜなら、前者は改良に過ぎませんが、後者はパラダイム・シフトだからです。惑星の動きを説明するのに、天動説を一生懸命改良するよりも地動説に変わるほうがインパクトが大きい、ということと一緒です。

最初は分かってもらえないかもしれませんが、それが正しいのであればあっという間に広まり、従来の概念を完全に置き換えます。

では、藤村氏も「従来の・・・」ではなく「マーケティングはもう必要ない」と言い切ればいいように思うかもしれませんが、そうなるともはやブランドである「エクスマ」という言葉が、何となく宙に浮いてしまう。

悩ましいだろうなあ、と思います。

もしかしたら、変化の時代には、従来の分かりやすい言葉はできるだけ使わないほうがいいのかもしれません。

とはいえ、まったくなじみのない言葉でも人を引き付けられない。本当に悩ましいですね。