ニーチェ=ツァラトゥストラが語る「精神の三つの変化」(『ツァラトゥストラかく語りき』河出文庫、佐々木中訳より)は、我々自由を求める人間にとっては実に示唆に富む話だ。

人生には様々でたくさんの重荷がある。それは、「汝なすべし」という名の巨大な龍が与えるものである。

駱駝は忍耐強く重荷を背負って砂漠を歩く。ブラック企業で文句も言わずに働く「社畜」を思わせる。

しかし、義務を否定し自由を獲得しようとする精神は、獅子となり龍と戦う。合言葉は龍から禁じられている「われ欲す」だ。

そして獅子は新たな価値を創造する。だが、社会からはみ出た乱暴者に見えなくもない。

そこに、さらに変化がやってくる。

獅子は「然り」と肯定することで、創造という「遊び」を獲得し、幼子(おさなご)となる。これは芸術家をイメージさせる。

「ありのままに生きる」ことを理想にする人には、獅子の段階で止まっている人が多いように思われる(たまに駱駝もいる)。

幼子の段階こそ、ありのままに生きていることなのだと思う。

そうだ、わが兄弟たちよ。創造という遊びのためには、聖なる「然りを言うこと」が必要だ。ここで精神は自分の意志を意志する。世界から見捨てられていた者が、自分の世界を獲得する。(前掲書より)