僕はなぜやきとり屋の記事を書くのか?

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いい寿司屋がなくなるのはやはり悲しい

先日、テレビを見ていたら、料理評論家の山本益博さんが日本で3本の指に入る寿司屋として紹介している天草の奴寿司が紹介されていました。正直に告白すると、どんな気取った高級店だろうと思って見ていたのです。

そうしたら、ぜんぜん違っていました。ちょっとずつ値上がりしているみたいですが(笑)、5000円を切る価格で12個(今は12貫というらしいですね。昔は普通サイズなら2個で1貫、大ネタなら1個で1貫でした)のお任せ寿司を提供していました。

長崎は地魚のうまいところですが、築地ほどネタが豊富ではないようで、どの寿司にも様々な工夫をこらした上で出していました。大将も気さくな人で、山本さんも高い店だけ行ってるわけじゃないんだねと、失礼ながら見直した次第です。

だけど、まあ、食べたわけじゃないので正しい評価ではないかもしれませんが、さすがに「3本の指」と言い切ってしまうと、日本の他の寿司屋さんに失礼ではないかとも感じました。僕は料理評論家が、お店のランキングなんかをつけるのは、本当におこがましいことだと思います。

築地の場内にいけば、お任せ5,000円ですごい寿司が食べられます。それどころか、僕の住む行徳にも、安いのに驚くべき寿司を出す店が何軒かありました。行徳あたりまで来ると、もう大したネタはありません。大したネタは全部築地に行っちゃうんです。なので、古くからあるお店は、驚くほどの工夫を凝らした寿司や酒肴を出してきます。

過去形なのは、それが全部潰れちゃったんです(僕が通っていた店だけですが)。回転寿司にやられちゃったんですね。

僕は回転寿司を否定する者ではありません。それどころか大好きで良く行きます。チェーンの回転寿司は大量仕入れをするのでネタがいいんです。握り方も昔に比べたら格段に進歩しました。進歩したというよりは、回転寿司の進出で潰れた店から職人を入れているんでしょう。

今では「高級料理」に位置づけられる寿司も、元々は銭湯の帰りにちょっとつまんで帰ろうかというようなものだったと聞いています。そういう意味では、回転寿司でもまだ高いのかもしれません。

まあ、そんなことはどうでもいいです。回転寿司が好きな僕ではありますが、ネタが少ない中で工夫をこらして、すばらしい料理を出す寿司屋さんが潰れていくのはやはり悲しい。

やきとりライター誕生秘話

さて、僕が「やきとりライター」をやろうと思った理由は、最初はマーケティング的な理由でした。

最近でこそ、お金も体もやばいので、昔ほど飲みに行かなくなりましたが、東日本大震災まではほぼ毎日飲み歩いていました。また、2007年ぐらいから、お金をいただいて文章を書くようになっていました。そうなると、居酒屋ライターなんかに憧れるわけです。

しかし、居酒屋ライターはもはやレッドオーシャン。今更参入できるとも思いませんでした。ところが、僕が飲み屋で一番好きな業態であるやきとり屋に関しては、専門のライターがどうもいないようなのです。マーケットが狭すぎるのかもしれません。あるいは、やきとりなんてどこも同じですぐにネタがなくなると思う人が多いのかもしれません。

となると、これはブルーオーシャンなんじゃなかろうか? 一番大好きなやきとりを食べに行って、それを記事にしてお金がもらえて、その上第一人者になれるかもしれない。

そこで数年前からやきとりの記事を書くライターになりたいと思っていたのですが、たまたまJAGZYの編集長が同じ店の常連だったので、やきとりライターの仕事をいただくことができたのでした。

それも、最初は違う企画だったのです。僕はどうしてもJAGZYで書かせてもらいたくて、編集長と一緒に飲んでいた時に酔っ払って口からでまかせな企画を適当に作ったのでした。酔いが覚めたら実現不可能だとわかったのですが、編集長から電話があって、ライターが足りないので先日の企画について相談したいと言う。そこで、代案として恐る恐る差し出したのが、やきとり屋さんを飲み歩いて記事を書くという企画だったのです。

しかし、夢は夢のままが一番ですね。僕は数回の取材で思い知りました。やきとりを食べに行くのが、苦痛になりました。今はようやく取材が楽しみになりましたが、連載5回目ぐらいでやめたくなりました。

そもそもやきとり屋さんは忙しい。取材を申し込むのがとても大変で、緊張しちゃって楽しくないわけです。趣味は仕事にするなというのが、よーく飲み込めました。

やきとり屋もやばいんじゃないか?

さて、取材するようになってから思ったのですが、いいやきとり屋さんって雰囲気が似てるんです。

何にかって? 行徳で潰れてしまった、いい仕事をするお寿司屋さんです。違いといえば、寿司屋の大将はだいたいがおしゃべりなんですが、やきとり屋の店長はどちらかというと無口だというぐらいですかね。

やきとり業界も、何だか寿司業界と似てきている気がします。

一方で、ミシュランで星がつく店が出てきました。もう一方でチェーン店が出てきました。

ミシュランのほうは措くとして(本当はやきとりでミシュランなんて拒めばいいのにと思いますけれど)、問題はチェーン店です。

回転寿司が好きだということでお分かりでしょうが、僕はグルメではありません。少なくとも舌は良くない。しかし、やきとりのチェーン店はダメです。チェーン店なのでいい鳥が入るのですが、それをまったく台無しに焼く。悲しいぐらいにです。

まあ、初期の回転寿司も正直まずかったですから、段々良くなるのかもしれない。とはいえ、やきとり屋のあの業態がなくなるとしたらとても悲しいことです。

すがれた店構えに、せいぜい20人ぐらいしか入れない狭い店。例外なく無口でシャイな店長が、黙々と出す順番をはかりながらやきとりを焼いている。みんな試行錯誤で焼き方を編み出してきたので、店によって微妙に味が違う。

守りたい。

まあ、僕なんかがでしゃばる話ではないのかもしれません。いくらチェーンの居酒屋が増えても、すがれた居酒屋はなくなりませんから。でも、居酒屋もやっぱり減りました。居酒屋チェーンの大罪は、ブラック企業だなんてことよりも、いい居酒屋を散々潰してきたことだと僕は思っています。

なので、微力も微力なのだけど、やきとり屋の記事を書き続けたいと思うのです。

有名店にはいかない。ほっといてもグルメ気取りの作家とかが取り上げてくれますから。僕は、発掘したいんです。ただ、僕一人では無理だと分かってきたので、読者に教えてくださいとお願いしている次第なのです。

JAGZY:愛を求めて やきとり漂流

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僕はなぜやきとり屋の記事を書くのか?” に対して2件のコメントがあります。

  1. ヤマグチ タカヒロ より:

    森川さんの焼き鳥漂流記事のファンです。
    しばらく日本を離れているので日本の味、特に森川さんの「赤ちょうちん」系は表現がリアルで、本当に美味そうで、そして懐かしくて、心からじんときます。
    だから、気持ちを整えてからでないと読まないようにしています。だって、日本を離れていて行きたくても行けないから。。。。

    自分が子供の頃、お袋が赤ちょうちん屋を切り盛りして家族を養ってくれたので、赤ちょうちんには特別な郷愁を覚えます。ガラス戸1枚の向こう側から客のカラオケやお袋に絡む酔っ払いの声のなかで育った子供は”絶対あんなみっともない大人にならない”と誓い、酒は飲んでも酒には飲まれないようにしてきました。

    その社会勉強のお蔭で、演歌は全て制覇。高卒で勤めた会社では頑張って仕事もしたけど、バーやスナックに通い、オジサン上司たちにずいぶん可愛がられ、大卒の先輩も足元にも及びませんでした。小僧のくせに生意気だったと思います。

    酒では失敗も多くいろいろ経験したけど、ある意味財産です。
    今想えば誰にも気兼ねなく、自分と向き合えるのは赤ちょうちんだと思います。やはり自分の原点だからでしょうか。

    今、自分の住んでいる街はブルーカラー系のアミーゴ(ヒスパニック)が多いです。彼らは人懐こくて気さくです。
    今は自営で物流の仕事をしていますが、あと10年位して落ち着いたら日本で焼き鳥の修行をしてここに日本の焼き鳥屋を開きたいと密かな夢をもっています。

    夢を現実の目標にするよう、しっかり仕事しながら、森川さんのブログで焼き鳥の座学を深めます。
    森川さん、体調管理に気をつけて焼き鳥漂流のブログ、永く続けてください。

    陰ながら応援しています。

    1. S.Morikawa より:

      ありがとうございます。
       
      焼き鳥屋の夢、きっとかなうと思います。
       
      がんばってください!

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