ある社長に取材して、それを文章化する仕事をしました。最終的には社長の名前で出す原稿の下書きです。当然、社長のチェックが入るのですが、そこに「全般にへりくだり過ぎ」という指摘がありました。
言葉遣いの問題かと思い、過剰な敬語に映るような表現を全て改めたのですが、それでもOKが出ません。
そこで打合せをしたところ、「へりくだり過ぎ」と指摘された理由は、思いもよらぬところにあるのが分かりました。
●「波が大きいんだよ」
社長の話はレベルが高く、中には高尚だなと思う部分もありました。
そこで、今のところは大上段だなと思ったら、その後に言い訳的な文言(例:「もしかしたら、そうではなく○○だと思う人もいるかもしれませんが……)を入れていたのです。
社長は、「波が大きいんだよ」と表現されました。つまり、大上段なことを書いては、その後に言い訳めいた書き方をする――その「言い訳めいた」部分が、その前が大上段なだけに、余計にへりくだっているように見える――そういうことだったようです。
ネットでの文章には多いパターンかもしれません。無用なコメントが付かないように、先に自分に突っ込んでおくというパターンです。僕もネットで書くことが多いので、どうやらそのような癖が染みついていたようなのです。
優秀な編集者は、そのような表現をさらりと直してくれるので、自分自身は気づいていませんでした。そういえば、時々「自虐的な部分は直しておきました」というコメントがついたことがありましたが、このことだったのか……と、ようやく気付いた次第です。
●もっとフラットに、次第に登っていくように
アドバイスもいただきました。
「最初に大上段に行かなければいいんだよ。そうすれば、次にへりくだらなくていいでしょう? フラットに表現して、だんだん高尚にしていけばいいと思うんだけどね」
なるほど。さすがは経営者です。僕はすっかり納得しました。
文章にユーモアを持たそうと思ったら、一人突っ込みをしてもいいのかもしれません。ただ、その場合は、全体的に筆者は道化役に徹する必要があります。社長の文章としてはふさわしくないのは間違いありません。どちらにしろ、かなり中途半端な文章を書いていたようです。
広告やPR目的の文章など、企業が発行する文章も同様です。平坦だが緩やかな上り坂のような文章が求められているのだと、改めて理解した次第です。
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