(大意) 身近な人の集まりに一個の真実の人間の姿があり、日常生活の中に一個の真実の生き方がある。真心をもって仲良くし、にこやかにして優しい言葉を使うことで、身近な人たちの間柄を心身ともにお互い通じるようにさせるほうが、呼吸法で気を養ったり、座禅などの特別な修行で悟りを開くよりも一万倍もすばらしい。 |
文字通り「家族団欒」と受け取っても構いませんが、日本の場合はむしろ「職場円満」と置き換えたほうがいいかもしれません。
いずれにしろ、身近な人とにこやかに優しく和気藹々と過ごせるように「する」ということが、道教や仏教の修行より勝ると言っています。
よく心を整えるために、瞑想や呼吸法を取り入れる人がいます。僕はそれを否定する者ではありません。それが自分を見つめなおすということにもつながるからです。
ただ、ストレス解消のためにやるのであれば、効果が薄いかなと、自分の経験からは思います。
アドラー心理学では、「すべての悩みは、『対人関係の悩み』である」というそうです。100%の真実なのかどうかは措くとして、実体験ベースで考えると、確かにそうだなあと思い当たります。
対人関係を良くするにはどうしたらよいか。
「真心をもって仲良くし、にこやかにして優しい言葉を使うことで、身近な人たちの間柄を心身ともにお互い通じるようにさせる」ことに尽きると僕は思います。
偉そうに断言していますが、本当につい最近わかってきたことです。
ことのきっかけは、今年いただいた仕事からでした。ある会社(A社とします)を取材して、それを短い物語にまとめるという仕事です。すばらしい会社なのですが、みなさん忙しい。こちらは仕事を請けている身ですから、クイックレスポンスを心がけています。しかし、先方はなかなか約束通りにフィードバックをしてくれない。
以前の僕だったら、これでは契約が守れないとややキレ気味に反省を迫ったかもしれません。ですが、今回は怒らず、メールや電話のやりとりも穏やかに、対面してお話しするときはにこやかにということを徹底して心がけました。こうできたのは、取材対象だったA社のやり遂げた仕事が心底リスペクトに値するものだったからです。
このようにしていると、相手もやさしい気持ちになってくるのでしょう。当初の期限からは大幅に遅れていますが、信頼関係ができあがり、まだ1本目の決着がついていないのに、2本目の仕事をいただくことになりました。
また、こちら都合で遅れる場合でも、優しい言葉で了解してくださるようにもなりました。
この仕事と並行して、別の会社がライターを募集していたので応募し、仕事をいただきました。
仕事の指示が、一般的な基準でいえばかなりいい加減で、しかも短期間で大量の仕事。仕事をもらえたのはいいけれど、10日しか作業期間がないのに、初日はただ途方に暮れただけでした。
これも以前の僕だったら、こんなのでは間に合わないと、かなりきつい言葉で責めていたことでしょう。しかし、A社の仕事の経験からかなり穏やかになっていました。
そもそもこんな短納期で大量の仕事を出さざるを得ない時点でかなり困っているということだし、指示がいい加減なのも忙しいからだと、相手を思いやることにしました。そして、自分ができるベストのことは何かを考え、それを一生懸命やりました。
お陰で、最初の仕事で高い評価をいただき、一気に3本も仕事をくださいました。
相変わらず指示はいい加減(笑)で大変です。それだけでなく、こちらがお願いしたことをギリギリまでやってくれないのでやきもきしすることもありました。しかし、不思議とトラブルにならない。
穏やかに優しく人を思いやり、自分なりにベストを尽くすということさえ心がけていれば、世の中なるようになるのだなあと、ちょっと感心しています。
振り返ると以前は、まったく思いやりなく、周囲には完璧な仕事を求めていました。これは自分も完璧でないといけないということです。しかし、完璧な人間などいません。僕など正直完璧からは程遠い。それで、心身ともに疲れ果ててしまい、多くの人に迷惑をかけてしまったことが何度もありました。
みんないい仕事をしたいし、いい人でありたいと思っている――まずは、このことを信じることです。できていないのであれば、何らかの事情があるはず。そう思いやりましょう。思いやりが日常になれば、自然と優しく穏やかになっていきます。
そうなれば、瞑想や呼吸法などに頼らなくても、自然に英気を養えるようになるのです。